今日の弁当に関連する情報をタイムリーに配信
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
吉田典史の時事日想:
忘年会を意識する時期になった。今回は、私が2007年暮れに開いた忘年会で起きたトラブルから、会社員が学ぶべきことを紹介したい。
会には、主要出版社(売り上げ、社員数などで業界の10位以内)から5人の編集者、そして中小出版社(この記事では、社員数100人以下とする)から15人の編集者が参加した。平均年齢は、30代後半くらいだった。20人はこれ以前に面識があったのは数人で、15~18人が初対面だった。
結論から言えば、この会は"最悪"だった。居酒屋で19時からスタートし、22時で終えたのだが、20時くらいからは口論になった。それは、「主要出版社5人VS. 中小出版社15人」という図式だった。
口論になった大きな理由は、主要出版社の人が、中小出版社のことを知ったかぶりで話すことだった。
特に労働条件(基本給、残業代、家族手当など)、人事異動(配置転換)などの違いを本当の意味では理解していない。それらを口コミで得たというレベルだった。ところが、双方の差がないかのように話し、最後は「賃金などの差は努力すれば埋まる」と口にした。このあたりで、中小出版社の人たちが怒り始めた。
激しい口論になったのが、残業代。ほとんどの出版社では編集者は雑誌にしろ、書籍にしろ、残業が多い。その際、その労働に対し、賃金が支給されないことがある。いわゆる、サービス残業だ。これは法的に問題なのだが、一部の企業では行われている。
会に参加した主要出版社には、いずれも労働組合があった。執行部は経営陣と協議の末、残業代について一定の「合意」を得ていた。会に参加した5人(それぞれ別の会社。いずれも労働組合員)のうち2人は、会社が残業代を支給する1カ月の上限が60時間だった。残り3人のことは、分からなかった。
上限が60時間の場合、例えば、57時間の残業をすれば、会社としてその分すべてを支給する。61時間を超える場合は、その1時間分が支給されない。その分はサービス残業になり、これは法的に問題になる。2人は、毎月60時間の分までは支給されていた。仮に時給2000円とし、60時間の残業をすると、月に12万円。年間で、144万円となる。
60時間に達しない月の場合、本人が「操作」をして達するようにするという。PCからタイムカードを入力する場合、退社時間を遅らせて、残業時間を増やすのである。これは不正に見えるが、2人いわく「大半の編集者がしている」という。上司や人事部は、何も言わないようだ。
一方で、中小出版社15人(数人は同じ会社)が勤務する会社のほとんどに労働組合はない。15人のうち2~3人の会社では、残業の上限が30時間と決まっていた。仮に時給2000円とし、30時間の残業をした場合は月に6万円。年間では、72万円となる。この2~3人の月の、サービス残業、つまり、30時間以上の分は30~40時間という。この分の賃金はもらえない。
残りの12~13人の会社は上限がなかったが、会社がその残業代を全額支給するわけではない。「年俸制」などと称して残業代を払わないのだという。だから、「サービス残業が月に50~60時間前後にはなる」と話している者もいた。
●なぜ、人は相手のことが分からないのか
ここまで説明した主要出版社と中小出版社の違いをどうとらえるか。編集者として同じような仕事をして、主要出版社の2人と中小の2人の収入は、残業代だけで年間70万円近くの差。実際の残業時間、つまり、本来、その人が受け取ることができる額で考えると、その差はもっと大きいはずである。
基本給の差を含めると、差は一段と大きくなる。30代後半で双方の年収の差は、私の見積もりでは少なくとも350万円、もしかすると、500~600万円の差が考えられる。わずか2年間で、1000万円の差が生じるのだ。
ここまでの差がありながら、主要出版社で働く編集者らの「知ったかぶり」が始まる。私が印象に残った言葉で言えば、このようなものがあった。
・残業代も、その社員の評価が高ければ認められる
・結果を出せば、(上司らに)認められる
・今は、実力主義の時代。その待遇に応じて、賃金はいずれ上がる
・今は終身雇用制がないから、転職をしていくことでキャリアアップが可能
・結局、(中小出版社の編集者は自分たちに)嫉妬している
彼らが言わんとしていることは分からないでもないが、事実関係に誤りがあり、説得力に欠ける。足元を見た中小出版社の編集者らも厳しいことを言い返した。そして、泥沼化していった。
ここで私が考えたいのは、大企業と中小企業の格差の問題ではなく、「なぜ、人は相手のことが分からないのか」ということだ。やりとりを思い起こすと、主要出版社の編集者が中小出版社の状況を知らないことに尽きる。中小の編集者は、主要出版社の実態をよく知っていた。それにも関わらず、主要出版社の編集者が知ったかぶりで押し通すところに諸悪の原因があると私には思えた。
4年前、私はとある学者を取材した。そのときに学んだことを紹介する。彼いわく「人の頭には情報を仕入れる"ビン"があり、そこに知識とか情報が入る。そのビンがない場合は、本を読んでも、その知識は頭にさほど残らない。少なくとも、忘れやすい。だからこそ、はじめにビンを作らないといけない」
●相手を理解するためのビン
これを忘年会のトラブルに置き換えると、主要出版社の編集者が中小出版社の編集者が置かれている実態、つまり、情報を集めるビンを頭に入れていないことが口論になった大きな理由の1つであることが分かる。
仮に、彼らが中小出版社の経営の状況、社員の賃金(基本給、残業代)、労組があるかないかなどの傾向を心得ていたら、忘年会のときもそこで働く編集者の声がすんなりと頭に入ったように思えるのだ。
このビンの話を、私はこんな具合に生かしている。例えば、先日、北関東にある病院の取材に行った。そのとき、まずは取材の前に、ビンを作るようにしている。例えば、地方にある私立病院の過去20年間分の経営状態、そこで働く医師や看護師らの賃金の推移、トラブルなどである。このうえで、かねてからの知り合いの医師や看護師に、賃金のことなどを聞く。
そして、取材先の病院に行く。そこで理事長や院長、医師、看護師らに取材を進めると、話が頭に入りやすい。つまり、情報を仕入れる前提になるビンを頭に設けることは、今後、会う相手の置かれている実態の大枠を構築することにつながる。これを心得ると、いざ会ったときの話はスムーズに進む。特に、相手が話すことを素直に聞き入れることができるのだ。
自身の経験で言えば、ビンを作ることなく、本を読んでもネットを検索しても、効果はなかなか上がらない。それこそ、あの忘年会の参加した主要出版社の編集者と同レベルになってしまう。
私は4年前の苦い経験を思い起こし、「相手を理解するためのビン」について考えることがある。例えば、今、1カ月に数回のペースで東北の被災地に取材で行く。その際、あらかじめ被災地全体の被害状況、各地域の被害、さらに復旧・復興の状況、課題といったアウトライン、つまりはビンを私は作っている。こうしておけば、新聞やテレビを見ていると、その情報がスーッとそれぞれのビンの中に入るかのようにすんなりとインプットできるのだ。
こうした作業は簡単のように感じるかもしれないが、実は多くの人がなかなかできていないように思える。読者にもこのビンを使っての情報収集を試みることを勧めたい。
[吉田典史,Business Media 誠]
(この記事は産業(Business Media 誠)から引用させて頂きました)
![]() 成功する最強の転職 実践ガイド:楽オク中古品 |
集客
PR
この記事にコメントする